合唱 歌詞 解釈

合唱曲「夢の世界を」の歌詞の意味を深く考察!〜短い歌詞に込められた「過去」と「未来」〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「夢の世界を」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「夢の世界を」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

動画はこちらから

 基本情報と歌詞のポイント

小学校や中学校の音楽の教科書にも載っている「夢の世界を」。
作詞は芙龍明子(ふりゅうあきこ)さん、作曲は橋本祥路(はしもとしょうじ)さんです。

橋本祥路さんは「時の旅人」「カリブ夢の海」など様々な合唱曲の作曲者として知られています。この歌は音楽の教科書会社である教育芸術社の若手編集部員だった頃に作曲したものだそうです。(朝日新聞 教科SHOW「中学校の音楽 その名曲、作者は編集部員」より)

一方で、作詞の芙龍明子さんについては調べて見ても詳細は分からず、上記の記事からは故人であることだけが分かります。こちらの童謡を調べるサイトでは9曲の作品がヒットし、橋本祥路さんが作曲の曲も数曲あることから、同じように編集部員などをされていた方なのかもしれません(あくまでも推測です)。

この歌は「8分の6拍子を教えるのにちょうど良い」「ユニゾン→混声3部という構成が合唱の導入に適している」などの理由から中学校の合唱コンクールでは1年生の課題曲となることも多いようです。

歌詞の方も、短い言葉の中に適度に想像の材料が詰まっており、歌詞を解釈する練習として良い教材になります。

歌詞の流れに沿って情景をチェック

それでは、それぞれの歌詞の情景を考えてみましょう。

【1番】
ほほ笑み交わして 語り合い
落ち葉を踏んで 歩いたね
並木のいちょうを 鮮やかに
いつかも 夕日がうつしだしたね

さあ 出かけよう
思い出のあふれる 道をかけぬけ
さあ 語り合おう
すばらしいぼくらの 夢の世界を

1番の前半は回想から始まっています。
後半で「ぼくら」とあるように、話者は「ぼく」で、他の誰かといることが分かります。
「ほほ笑み交わして 語り合い」というところからは、昔からの親しい関係が伝わってきます。
「落ち葉を踏んで」という表現は、単純に季節の情景と捉えても良いですが、踏んだ時の音を楽しみながら歩いていると捉えると、当時の幼さが強調されます。
「いちょう並木」の黄色や茶色と「夕日」のオレンジ色の懐かしげな情景を想像しながら歌いたい歌詞です。

この前半でも、この後の後半でも「ぼくら」の関係性が非常に重要になってきます。「ぼく」は一般的に(絶対ではありませんが)男性の一人称ですから、話者は男性だとして、その他の人は人数も性別も年齢も関係もわかりません。
というよりも、それらのさまざまな解釈があてはまるように作られていると感じます。

例えば、

①男友達 中学生・高校生 【2人】
②恋人同士(夫婦) 中学生~大学生・大人 【2人】
③親子・家族【2人・複数】
④部活仲間・チームメイト・クラスメイト【2人・複数】


など、様々に考えられます。

それによって、「語り合い」の内容も、回想シーンの年齢や情景も変化していくでしょう。

後半では曲調が変わり、歌詞も「さあ」と未来へ向けた力強いものになります。
作曲者の橋本さんは「前半は過去を振り返り、後半は未来へ進む」と語っています。

「すばらしい ぼくらの夢の世界を」とは、「理想の未来像」であり、「かけぬけ」からは、そこに向かって全力で進んでいこうとする力強さが読み取れます。
この「未来像」も例えば、チームメイトであれば、「勝利に向かって」となるでしょうし、恋人同士であれば「幸せな将来に向かって」となるでしょう。

このあたりの人物像と未来像を考えることが、この歌を深めるポイントと言えます。

2番も1番と同じように「過去の回想」→「未来へ」という流れになっており、「ぼくら」の人物像が深められていれば、情景もイメージできるようになっています。

授業で扱う場合(主な発問や展開)

これまで見てきたように「夢の世界を」の歌詞では「ぼくら」の詳しい人物像や「夢の世界」がどんな未来なのかは、詳しく書かれていません。
それはたくさんの人に自分の子どもの頃の思い出や、これからの未来をリアルに思い浮かべて、当てはめてほしいからだと考えられます。

中学校の音楽の教科書に載せるために作曲されたという経緯や、後に橋本祥路さんが「詩も夢に向かって、突き進んでいく若者たちの姿が、映し出されています。」と解釈を書いていることを考えると、「ぼくら」は若者同士と捉えるのが一般的だとは思います。

ですが、歌詞を見る限り、回想部分に親子が手を繋いで帰る情景など、若者同士以外を当てはめることもできるでしょう。

そんな懐の広さがこの歌の魅力であり、解釈していて楽しい部分でもあると思います。

以下のような点について、みんなで考えながら、この歌の世界を深めていってください。

【発問例】
①「ぼくら」は何人か?
②「ぼくら」の性別・年齢・関係性は?
③回想部分は何歳頃のことか?
④「夢の世界」はどんな「未来」を指しているか?
⑤「ぼくら」の物語を小説のように考えてみよう。

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

また、橋本祥路さんがこの歌について指導をしているDVDがあり、その内容のエッセンスがこちらの記事ではまとめられています。こちらもご覧になると、より曲への理解が深まると思います。

他の合唱曲の歌詞分析はこちら↓

合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞の意味を深く考察! 〜曲名順に整理〜主に中学・高校の合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞について文学研究者の視点から考察しています。実際に歌う生徒さんや、指導される先生方の手助けになれば幸いです。...