合唱 歌詞 解釈

唱歌「仰げば尊し」の歌詞の意味を深く考察・解説〜どんな意味?幻の2番がある?~

こんにちは!

卒業式で「仰げば尊し」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの中学生に歌詞の意味を指導してきました。
なんとなく歌っている最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「仰げば尊し」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

 基本情報と歌詞のポイント

かつては卒業式の定番曲だった「仰げば尊し」。
発表された1884年(明治17年)から、各校の卒業式の歌として定番となり、数多くのドラマなどでも卒業のシーンでは歌われてきました。

ですが、使われている言葉の難しさや、歌詞の中の価値観が合わなくなってきているとの考えから、歌われることが減ってきています。

個人的にはゆったりとしたメロディーに、文語調の趣深い歌詞があいまって、とても好きな一曲です。これからも歌い継がれていって欲しいと思っています。

そのためにも、ここでは難解に見える歌詞の意味について分かりやすく解説していきます。

それぞれの歌詞の意味は?

歌詞

【1番】
仰げば尊し わが師の恩
教えの庭にも はや幾年(いくとせ)
思えば いと疾し(とし) この年月(としつき)
今こそ別れめ いざさらば

【2番】
互いに 睦(むつみ)し 日頃の恩
別れるる後にも やよ忘るな
身を立て 名をあげ やよ励めよ
今こそ別れめ いざさらば

【3番】
朝夕慣れにし 学びの窓
蛍の灯火(ともしび) 積む白雪(しらゆき)
忘るる間(ま)ぞなき ゆく年月(としつき)
今こそ別れめ いざさらば

歌詞の意味・訳(あえて直訳に近い形にしています)

【1番 訳】
見上げれば尊い 我が師からの恩
教えを受けてから 早いもので、もう何年も経った
思い返せば とても早かった この年月
今こそ別れよう! さあ、さようなら

【2番 訳】
互いに仲良く過ごした 日頃の恩
卒業した後も、さあ、忘れるな
自立して 世に認められ さあ、励めよ
今こそ別れよう! さあ、さようなら

【3番 訳】
朝に夕に 慣れ親しんだ学校
蛍のともしび 積もる白雪
忘れる間なんて無い これまでの年月
今こそ別れよう! さあ、さようなら

細かい言葉の意味

「仰げば尊し」

「仰ぐ」は「見上げる」で、尊敬の気持ちを表しています。直接的な意味は「思い返せば」くらいの使い方ですが、時代的に「師」への尊敬が強く込められているのが感じられます。

「教えの庭」

「庭訓」(ていきん・ていくん)という『論語』にまつわる言葉があり、主に「家庭での教え」を表しますが、「有識者からの教育・躾」という意味ももつ。この歌のイメージは学校なため、後者の方がふさわしいと考えます。単純に「校庭」と捉えても良いかもしれません。

「はや幾年」

「はや」は「早くも、早いもので」という意味で、「幾年」は「何年も」という意味です。

「いと疾し」

なんとなく「いとしい」のように捉えがちなこの言葉ですが、「いと」は「とても」という意味で、「疾し」は「速い」という意味なので、年月が経つのは「とても速い」という意味になります。
「いと」は枕草子冒頭の秋に「雁などの連ねたるが いと小さく見ゆるは いとをかし」と出てきます。「疾し」は風林火山の「疾きこと風の如く」に使われていますね。

「今こそ別れめ」

これも「別れ目」と捉えがちですが、これは「今別れむ」という意志の「む」が、「こそ」との係り結び(中学校でやりましたね)で「め」に変わったものです。ですから「今、別れよう!」という力強い言葉で、別れと同時にそれぞれの道へと旅立っていく決意が感じられます。
自分の意志で別れる、というニュアンスをしっかりと感じたいところですね。

「睦(むつみ)し」

「睦む」は「睦ぶ」とも言い、「仲良くすること」です。「仲睦まじい夫婦」や「親睦会」などに今でも見られます。
※旧暦一月の「睦月」は、正月で親戚一同が仲良く集まるから「睦月」と言うそうです。

「やよ」

「やよ」は呼びかけの言葉で「やあ、さあ、おい」といった意味になります。

「身を立て、名をあげ」

社会的に、地位や名声を得ることで、いわゆる「立身出世」と呼ばれるものです。
実は、この部分が戦後の民主主義の風潮に合わないとされ、「幻の2番」とされてしまった原因だと言われています。※現在、歌われるのは1番だけや、1番と3番がほとんどです。

「蛍の灯火 積む白雪」

ここは、故事成語の「蛍雪の功」を踏まえています。中国で二人の貧しい青年が、本を読む油が買えない代わりに、一人は蛍の光で、もう一人は雪に反射する月明かりで本を読み、立派な官僚にまで出世したというお話です。
苦労して学問に励むことを表す故事で、学校の卒業式には相応しい故事だと言えます。
もう一つ、卒業式で定番曲だった「蛍の光」の歌い出し「蛍の光 窓の雪」もこの故事にから来ていますね。

最後に

ここまでにも述べてきたように、この「仰げば尊し」は、言葉の難しさや、歌詞が時代の価値観に合っていないなどの理由で、だんだんと歌われなくなったり、2番だけ「幻」となってしまったりなどという経緯を辿っています。
 ですが、文語に馴染みがないとしても、少し解説をすれば、歌われていることは簡潔な内容ですし、心情も理解はしやすいと思います。
 2番の歌詞にしても「立身出世」の何が悪いのかと思いますし、特別軍国主義的な歌詞というわけでもありません。
 J-POPなどの歌ももちろん良さはあるのですが、こういった何世代にもわたる定番曲も歌い継がれていって欲しいなと思っています。

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