合唱 歌詞 解釈

合唱曲「証」の歌詞の意味を深く考察!〜それぞれの道に進んでも変わらないもの〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「証」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「証」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

ここでは主に

歌はこちらから聴けます。

 基本情報と歌詞のポイント

中学校の合唱コンクールや卒業式で歌われることの多い「証」。

この曲は、2011年の第78回NHK全国学校音楽コンクール(通称Nコン)の中学校の部の課題曲としてflumpoolが作成したものです。毎年課題曲には共通のテーマが設定されていますが、この年のテーマは「仲間」でした

flumpoolは2007年に結成された男性4人のバンドで、ボーカルの山村隆太さんが「証」の歌詞を書き、ギターの坂井一生さんが曲をつけました。

この歌の登場人物は「僕」と「君」の二人で、先を歩く「君」を後ろから「僕」が見送っている歌です。寂しく感じながらも、それぞれがお互いの道へと歩き始めていく別れの場面を歌っています。

歌詞の流れに沿って情景をチェック

それでは、それぞれの歌詞の情景を考えてみましょう。

【1番】
前を向きなよ 振り返ってちゃ 上手く歩けない
遠ざかる君に 手を振るのがやっとで
声に出したら 引き止めそうさ 心で呟く
“僕は僕の夢へと 君は君の夢を”

あたりまえの温もり 失くして 初めて気づく
寂しさ 噛み締めて 歩みだす勇気 抱いて

溢れだす涙が 君を遮るまえに
せめて笑顔で ”またいつか”
傷つけ合っては 何度も許し合えたこと
代わりなき僕らの証になるだろう

歌い出しは「前を向きなよ」という「僕」から「君」への言葉から始まります。
この出だしの一文で「君」が何度も振り返り「僕」との別れを惜しんでいることが伝わります。振り返り、まっすぐ前に進めない「君」に対して、自分の寂しさを我慢しつつ励ますメッセージがこの「証」全体の歌詞だと言えるでしょう。

2行目からは「僕」の寂しさと、「君」への励ましが交互に歌われています。

「手を振るのがやっと」「引き止めそう」と寂しく感じながらも、「僕は僕の夢へと 君は君の夢を」と別れを前向きに捉え、君の背中を押す想いが歌われます。それは声には出ていませんが、表情などできっと「君」にも伝わっているでしょう。

「君」がそばにいる温もりというのは、これまで「あたりまえ」のものでした。しかし、それぞれの道を歩み始めて、お互いがそばに居ない状況に直面して初めて、それがかけがえのないものだったのだと気づきます。

強い寂しさを感じながらも、それを表情には出せない。この矛盾した想いがまさに「寂しさ噛みしめて 歩み出す勇気」というものなのでしょう。
寂しいのはこれまでの時間がとても素晴らしいものだった証です。それを弱さにするのではなく、今後のエネルギーとして前向きに人生を歩んでいく強さにしていって欲しいというメッセージが読み取れます。

次の”またいつか”も、前の歌詞からすると声に出してではなく、心の中で思っているとする方が自然でしょう。この歌詞には””が何度も出てきますが「」が出てきておらず、全て「僕」の心の中で響いているフレーズと考えられます。

お互いがお互いを信じて、それぞれの道を行くには、二人の「証」が大切になってきます。それは具体的なものなどではなく、これまで一緒に過ごしてきた時間だと言えるでしょう。

その中では「傷つけ合」うこともありましたが、それでも許し合い、今も大切な関係でいます。その「証」があれば、これからも時間や場所が離れても、つながっていられます。

【2番】
“我侭(わがまま)だ”って貶されたって 願い続けてよ
その声は届くから 君が君でいれば
僕がもしも 夢に 敗れて 諦めたなら
遠くで叱ってよ あの時のようにね

君の指差すその未来(さき)に 希望があるはずさ
誰にも決められはしないよ
一人で抱え込んで 生きる意味を問うときは
そっと思い出して あの日の僕らを

2番では「僕」と「君」がそれぞれの道に別れた後のことを想像しています。

「君」の道は、周りから見ると「我侭だ」と否定的に見られるもののようです。
例えば家族や周りの勧める進路ではなく、自分が「やりたい」と思う事に向かって海外に行くとか、学校には進学しないなどが考えられます。
「その声は届く」とは、周りの人達が反対したとしても、自分を見失わず、願い続けていれば、いずれは周りも理解をしてくれる日が来るという意味だと考えられます。

同じように「僕」の夢も順風満帆に進むとは限りません。その時に「叱ってよ」と言えるところに二人の関係性が見えます。この「叱る」は「叱咤激励」という言葉があるように、「元気づける」意味のあるものだとは思いますが、単純に「励ましてよ」ではなく、「叱ってよ」というところに、お互いが本音で厳しいことも言い合えるという関係が分かります。

「君」の未来は「君」以外誰にも決められません。それは「僕」にもアドバイスできることではありませんが、「あの日」、お互いに夢を語り合ったような日々は、きっと「君」を勇気づけるものとなるでしょう。

【サビ】
またね って言葉の儚さ 叶わない約束
いくつ交わしても慣れない
なのに追憶の破片(かけら)を 敷き詰めたノートに
君の居ないページは無い

溢れだす涙 拭う頃 君はもう見えない
想う言葉は ありがとう
傷つけ合っては 何度も笑い合えたこと
絆を胸に秘め 僕も歩き出す

ここから曲調が変わります。

これまでにも「僕」はたくさんの出会いと別れを繰り返してきたのでしょう。
「またね」と言って別れながら、その後一度も会えていないという人が何人もいたはずです。そんな「儚さ」を思うと、この「君」と再び出会うこともあまり期待しないで、「忘れようか」という想いもよぎるでしょう。

そんな歌詞に表れない想いが「なのに」という逆接なのだと思います。
「期待しないでおこう」「忘れよう」と思っても、これまでの記憶を辿れば、その思い出全てが「君」との時間で彩られており、忘れるなんて出来そうにはありません。

「1番」の「あふれ出す涙が君を遮るまえに」から、「あふれ出す涙拭う頃」までに時間が経過したことが分かります。その間に、君はもう見えなくなっていました。きっと自分の道を力強く歩き始めたのでしょう。

そんな中で「僕」の心に最後に浮かんだ一言は”ありがとう”でした。

「1番」では「傷つけ合っては 何度も許し合えたこと」=「証」だったのが最後では「傷つけ合っては 何度も笑い合えたこと」=「絆」となっています。表現は変わっていますが、どちらも単純に穏やかな日々だけではなく、様々なトラブルを乗り越えても一緒にいる「強さ」を感じさせます。

最後は「僕も歩き出す」で終わっています。「君」との一連の別れを済ませる中で、「君」との確かな「証」=「絆」があることを実感できたからこそ、「僕」も力強く前に進んでいけるのでしょう。

この歌の二つのポイント

「 」ではなく、” ”の理由

この歌では” ”が多用されています。「 」でないのは、シンプルな理由としては実際の声ではなく「心の声」だからでしょう。ですが「 」を使っても、実際の声か心の声かは文脈で分かります。それでもあえて“ ”にしているのは、「声に出さなくても、つながっている」ということを表現しているのではないでしょうか。

実際の声は、離ればなれになってからは届きません。ですが、この別れに際して”僕は僕の夢へと 君は君の夢を”や”またいつか””ありがとう”などの心の声が「君」に届いているのなら、今後どれだけ距離が離れても心の声は届き合うことが想像できます。

これもまた二人の「絆」を表す、工夫なのかなと思いました。

2011.3.11の東日本大震災に関連して

この歌自体は東日本大震災の時には既に完成していたのですが、歌われたのは震災後である、2011年のNコン課題曲ということもあり、震災とも強く関連させて読める歌詞だと言えます。2011年5月にはNコン特番「また仲間たちと歌いたい~中学生をつなぐ「証」~」でflumpoolが仙台の八乙女中学校を訪れ交流する様子も放送されました。

例えば「前を向きなよ 振り返ってちゃ 上手く歩けない」という歌詞は、震災の辛さから立ち直れないでいる人へのメッセージに見えます。

「あたりまえの温もり 失くして 初めて気づく」や「”またね”って言葉の儚さ 叶わない約束」などの歌詞は、震災で大切な人を亡くしてしまった人達の想いに重なります。
この部分の歌詞を見る時、私はいつも、次の動画が思い出されます。
※2011.3.11の震災で友人を失ってしまった方の卒業式での答辞です。津波自体の映像は出ませんが、当時を思い出すのが辛い方などは見ないようにしてください。

歌詞全体を震災に関連した一つのストーリーとして当てはめようとすると、違和感のあるところも出てきますが、部分部分の歌詞にこのような当時の背景を想像しながら想いを込めるという歌い方があっても良いように思います。

授業で扱う場合(主な発問や展開)

この歌では「僕」が旅立つ「君」を見送る場面が抽象的に描かれています。「僕」と「君」のこれまでや、年齢、それぞれの夢などは、詳しくは書いておらず、見る人によって様々に想像できるようになっています。

そのため、それらの状況をそれぞれが具体的に想像し、共有することで、歌詞一つ一つの歌い方も変わってくるでしょう。

具体的には以下のような発問が考えられます。

【発問例】
①「僕」と「君」は何歳くらいか?
②「僕」と「君」は何年前からのどんな関係か?友達?恋人?
③「僕」と「君」の夢とはそれぞれどのようなものか?なぜ「我侭だ」と言われるのか?
④なぜ二人は別れるのか?卒業?転校?就職や上京?
⑤二人がいるのはどんな場所?見えるもの・聞こえるもの・感じるものを想像してみよう。
⑥どんな気持ちを込めて歌う?

時間に合わせて、考えてみてください。

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

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