合唱 歌詞 解釈

合唱曲「旅立ちの時~Asian Dream Song~」の歌詞の意味を深く考察!〜孤独の暗闇から、前を向いて歩いて行く勇気〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「旅立ちの時~Asian Dream Song~」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌いたいけど、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなくのイメージで歌うのと、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後に歌うのとでは、気持ちの込め方も全く違うものになります

ぜひ、「旅立ちの時~Asian Dream Song 」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

 基本情報と歌詞のポイント

合唱曲「旅立ちの時~Asian Dream Song~」(以下『旅立ちの時』と省略します。)は中学校の合唱コンクールで歌われることが多い人気の曲です。

『旅立ちの時』は1998年に長野県で開かれた「長野パラリンピック 冬季大会」のテーマソングとして久石譲さんが作曲し、ドリアン助川さんが作詞をしました。

久石譲さんは多数のジブリアニメの曲を手がけていることでも有名ですね。

この曲は、アジアで初の冬季パラリンピックのために、『世界の中の日本』を意識し、日本の情緒的な音階、今日的インターナショナルなリズムをベースに作曲することにより、ワールドワイドに受け入れやすいように配慮して作ったと言われています。

この歌はストーリーよりもメッセージ性が強い曲です。サビの「夢をつかむ者たちよ 君だけの花を咲かせよう」をはじめ、パラリンピックのアスリートを思わせる歌詞となっています。

今回は、

■視線と、時間の変化
■込められているメッセージ
■どのように気持ちを込めて歌えば良いのか?

について、それぞれ見ていきましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=Tb9gPmpxgfo

歌詞の流れに沿って情景をチェック

暗い道を一人進んでいく

君の瞳に 花開く
夢をかなでる 心
風に吹かれるこの道さえも
星明かりに照らされ
今 ただ一人歩こう

この歌は「夢」が「花開く」ところから始まり、サビの「君だけの花を咲かせよう」まで繋がっていきます。

「瞳」の視覚的表現と、「奏でる」の聴覚的表現の両方から「夢」が表されています。

「風に吹かれるこの道さえも 星明かりに照らされ」とは、「風」という不安がありながらも、無数の「星明かり」のように、明るい希望も一緒に同居する胸の内を表していると考えられます。

最初の連は、時間帯は「夜」、視点は「道」がある「足元」、人数は「一人」という状況からスタートします。

孤独な中での歌

胸を震わせるときめきを
空と大地に歌おう
哀しみも笑顔もぬくもりも
熱い思いに揺れて
今 抱きしめて歩こう

2連では「歌おう」という聴覚的表現と共に、「ぬくもり」「抱きしめて」という触覚的表現が使われています。

視線は足元の「道」から上に上がって、空と大地の間の地平線へと向かいます。

まだ、ここでは陽は昇っておらず、暗い孤独感の中で、燃える情熱を頼りに前へと進み続けています。

アスリートなどに置き換えるなら、まだ立派な記録なども出せず、世の中に認められない葛藤の時期を表していると言えます。

朝陽が差してくる

旅立ちの勇気を
地平線の光と分かち合うこの時
微笑みながら ふりむかずに
夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう

「地平線の光」という言葉で、夜明けの光が見えてきたことが分かります。

その光に勇気をもらい、ここからいよいよ「旅立ち」が始まります。

これまで、誰にも認められず、黙々と自分を信じて努力を続けてきた期間は、認められない辛さはありますが、失うものはそれほど多くはなかったかもしれません。

ですが、正式にそれを「夢」として目指していくと決めて宣言すると、さまざまな壁が立ち塞がります。

「趣味」としてなら応援してくれていた人も、急に反対し始めるかもしれません。身近な人だからこそ「あなたのためを思って」と無難な道を勧めることもあるでしょう。

「微笑みながら ふりむかずに」とはそんな反対にも負けることなく、前に進んでいく様子を表しているのでしょう。

「君だけの花」とは、それぞれの才能を指すと思いますが、パラリンピックのテーマソングということを考えると、「障害」も「君だけの花」と表現していると考えられます。

歴史の中に咲く無数の名もない花

争いの日々を乗り越えて
青空に歌う時
かけがえのない命のはてに
名もない花を咲かそう
今地球(ここ)に生きる者よ

「争いの日々」は夢を目指して、旅を続ける中での様々な困難や、周りの反対との争いを表していると考えられますが、もう一つの捉え方もあります。

それは人類の戦争の歴史を指すという捉え方です。オリンピック憲章の「オリンピズムの根本原則」には「オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである。」とあります。

「争いの日々を乗り越えて 青空に歌う時」とは、これまでの様々な大戦を経て、今、このパラリンピック開会式で各国の人が共に声を合わせて歌うことができる平和な状況を表しているのではないでしょうか。

人類の、そして地球の長い長い歴史から考えれば、一人の人間が命を懸けても残せるものは、本当にわずかしかありません。そしてその大半は歴史に残ることすらない「名もない花」でしょう。

ですが、視点を変えれば、この長い人類の歴史はそんな「名もない花」の集まりであり、私たちの命も、そんな壮大なリレーのバトンが渡されて存在しています。そう考えれば、一つ一つが「かけがえのない」ものであり、今を生きる私たちの命も「かけがえのない」ものなのです。

未来へ!

旅立ちの勇気を
虹色の彼方に語りかけるこの時
微笑みながらふりむかずに
夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう
夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう

最後の連では視線が「虹色の彼方」となっており、空の彼方の未来を目指していることが読み取れます。

ここまで様々な困難があっても、もう前を向いて進んでいくだけだという決意を感じさせる歌詞になっています。

どう歌う?

流れを追う中で触れてきたように、この歌では

【時間帯】夜中→夜明け→朝・昼
【視線】 足元→地平線→青空→虹の彼方

というように変化が表現されています。

それに伴って、話者の心境も

「誰にも理解されない孤独な中での努力」→「本格的に夢を定めた時の周囲との争い」→「心を決めて、前だけを向いて進む」という風に変化していっていることが読み取れます。

全員で、一人のアスリートの人生をイメージして歌っても良いですし、それぞれの人生で「孤独」「夢」「努力」などのキーワードから思い浮かぶ出来事をイメージして歌っても良いでしょう。

羽生結弦さんのあの曲にも

『旅立ちの時』を知っている方は、2017年に行われたヘルシンキでの世界選手権で羽生結弦選手が使った「HOPE&LEGACY」の演技を見た時に、「あっ」と思ったのではないでしょうか。

「HOPE&LEGACY」とは、久石譲さんが、長野パラリンピックのフィナーレをプロデュースした際に生まれたものだそうです。この曲は『旅立ちの時』と久石譲さんのもう一つの曲『View of Silence』から成り立っています。

詳しくは

羽生結弦が自らのスケート人生を投影したFS/『Hope & Legacy』 | VICTORY

に書かれています。

羽生結弦選手も、一人のアスリートとして大けがを乗り越えたりなど、様々な困難の中で歩みを止めていません。

この歌を歌う時に羽生結弦選手をイメージしてもよいかもしれませんね。

www.youtube.com

授業での主な発問

①各連で変化して言っているものは何ですか?

これだけでも、「時間帯」「視線」「話者の心情」などの変化に気づくことができるかもしれません。この発問であまり気づきが出ないようであれば、次の②~④の形で細分化して聞いてみると良いでしょう。

②各連の時間帯はいつですか?「朝」「昼」「夜」?

どの言葉からそう考えたかも言ってもらう。

③各連で話者はどこを見ていますか?

これも根拠となる言葉を確認します。

④「風に吹かれるこの道」「哀しみ」「争いの日々」とは具体的に何を表しているか?

これを考えていく中で、それぞれの「夢を追う」中での苦労が出てくるかもしれません。

⑤「夢をつかむ」までにはどのような苦労が具体的にあるでしょうか?

一人一人に自分の経験を振り返らせたい発問です。

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、「視線の変化」「心境の変化」と、パラリンピックのテーマソングだったということだけでも伝えてあげると歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

 他の合唱曲の歌詞分析はこちら ↓ 

合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞の意味を深く考察! 〜曲名順に整理〜主に中学・高校の合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞について文学研究者の視点から考察しています。実際に歌う生徒さんや、指導される先生方の手助けになれば幸いです。...