Liveの中でも異色の一曲
2023.6.28に櫻坂46の6thシングル『Start over!』がリリースされました。
この「静寂の暴力」はその中の通常版&全TYPEに収録されている曲で、センターは山下瞳月さんです。またこの曲は「夏の近道」以来2曲目の三期生曲です。
Liveでは、この曲だと分かると、会場全体がペンライトを消して、物音一つ立てず、3期生の足音だけが響くという異次元の空間が生まれます。数万人が呼吸の音すらためらうような静寂の中で、全員の目を釘付けにするパフォーマンスは圧巻です。
この歌詞に注目すると、「コロナ禍」というそれ以前には想像もできなかった「ありえない日常」があったからこそ生まれた曲だと言えます。
ここでは
■コロナ禍に関連させて考えてみると?
■「静寂は暴力」の本当の意味とは?
を中心に考えていきます。
ぜひ最後までお読みください。
MVはこちらから見られます。
歌の流れを追いながら全体のストーリーを考察
1番 未来への希望が持てない「私」
静かすぎる時間は嫌い
呼吸さえもできなくて
星の降る夜
なぜ 人恋しいのか
灯りを消した
部屋の天井は
心の声 聴いてくれる
あれこれ 弱音を思い浮かべても眠れないだけ
目を閉じて何を夢見ればいい?
静寂は一つの暴力だと思う
これ以上傷つけないで
し~んとした無限の空間
暗闇に
吸い込まれるように 全て 無になる
光を否定された
私のそばに誰かがあなたが
いてくれたなら
怖くない
歌い出しから「静かすぎる時間は嫌い」と静寂への拒否が示されます。
なぜ嫌いなのでしょうか?
「明かりを消した部屋の天井」とあることから夜中に、ベッドで横になっていることが分かります。
心がネガティブな時に静かな空間に一人でいると悪い考えがたくさん浮かんできてしまう経験は多くの人にあると思います。
ここでも「あれこれ弱音思い浮かべても」とあるようにマイナスな思考が次々と出てきてしまうのでしょう。
また「何を夢見ればいい」は「どんな夢を見ればいい」ではなく「夢見る」(将来のことを考える)となっているところから、眠るときの夢ではなく、将来への明るい希望がもてないということでしょう。
このように「人恋しい」「弱音を思い浮かべても」「何を夢見ればいい」「これ以上傷つけないで」「光を否定された」という表現から考えると、「私」はこれまでにも孤独を感じるような傷つく経験があり、将来に希望を持てない状況のようです。
「静寂」がそのような自分の状況を強く実感させ、ネガティブな思考ばかりで、自分を傷つけるため「暴力」とまで感じるのでしょう。
この曲はコロナ禍と呼ばれる2020年1月30日から2023年5月頃までの体験がないとイメージがしづらい歌詞になっていると思います。
あの当時、多くの人がなくなり、学校の行事などは中止となり、傷つくことが多くありました。絶望の中では希望になるはずの「人とのつながり」自体が制限され、明るい未来などが想像もできませんでした。この歌詞の一つ一つがそんな時の想いを物語っていると思います。
2番 街全体が孤独になっていく
街はもう眠ったか?
それとももう死んだのか?
世界から ノイズが消え
誰も孤独になるよ
この世には自分以外の
何者かいて 騒いでるから
人の気配にホッとするんだ
一人じゃない そう信じたい
何にも
起きてない
時計の針がくるくると
虚しく回ってる気がするよ
ベッドにどんどん沈んで行くような
私の身体は錯覚して
唇が乾いてしまうくらい
無口な筋書き
静寂という名の音が存在する
それは確かに聴こえていた
言いかけた言葉は終わる
「喋りたい願望を捨てて 沈黙を愛せるか?」
想像をするのは当たり前の日常
妄想だって言われても
正解を答えられない
ブランケットを頭からかぶってしまおう
このまま愛情をもらえずに
夜が明けるまで 瞬きしないで
じっとしてよう
2番の歌詞もコロナ禍の街を知っていればリアルに想像ができます。
外出自粛が呼びかけられ、多くの人であふれていた街から、人影がなくなりました。
今では「オーバーツーリズム」と人の多さが問題となっている京都などの観光地も、当時は下の写真のような状況でした。


1番では「私」の孤独が歌われていましたが、2番で「街は もう死んだのか?」「誰も孤独になるよ」と表現されるように「私」だけでなく、世界中が同じような状況でした。
「何も起きてない」~「無口な筋書き」の歌詞ですが、夜中に時計の「カチカチ」という音だけが響くような中、だんだんと意識が沈んでいくという具体的な表現にも読めます。
一方で「何にも起きてない」とは世界中が眠りについてしまっているような静けさで、「時計の針がむなしく回ってる」とは未来の希望が持てないまま貴重な時間だけがどんどん過ぎていくことを象徴しているように見えます。
特に若い人たちにとっての1年、2年というのは大きな意味を持ちます。「世の中」や「大人」が決めた「禁止」「中止」「制限」の中で、どうすることもできず「ベッドにどんどん沈んでいく」かのように、無力感だけが募っていったのではないでしょうか(それは大人も同じでしたが)。
「唇が乾いてしまうくらい 無口な筋書き」とは、誰とも話すことができず、唇が乾くような状況が延々と続いていくかのような筋書きに思えてしまう不安感をよく表しています。
「静寂という名の音が存在する」とは、本当の無音の時にしか感じられない音でしょう。
例えば学校なら、これまでにぎやかだった給食の時間が「黙食」というスローガンのもとに、寂しく味気ない時間になりました。
「シーン」という静けさを表す効果音があるのは日本語の特殊性としてよく話題になりますが、それを「確かに聞こえていた」と実感した年月だったのではないでしょうか。
そんな暗さをなくそうと、話をしようと思っても、世の中全体の空気がそれを許しません。
それが「言いかけた言葉は終わる」という場面でしょう。
ここまで、ひたすらコロナによる「禁止」「中止」「制限」で抑圧された暗さを描いてきましたが、「喋りたい願望を捨てて、沈黙を愛せるか?」というセリフから雰囲気が変わります。
このセリフは疑問形になっていますが、「いや、そんなのは無理だ!」という強い想いが隠れている反語でしょう。現状への抵抗の意志が初めて表れる部分です。
しかし、その直後には、また諦めの気持ちが語られます。
「当たり前の日常」とはコロナ禍以前の、当たり前のように友達と話せて遊べた日々です。
それがコロナの最中には「妄想」と言われてしまうくらい未来が見えない状態でした。
「ブランケットを頭からかぶってしまおう」というのは、そんな世の中をシャットアウトする形で「夜が明けるまで(コロナ禍が終わるまで)」「じっとしていよう」と考えることや抵抗することを諦めてしまっています。このまま終わってしまうのでしょうか。
ラスト 一人一人の心の中の声
自分から
叫びたいよ
泣いてもいい
声を枯らし
ここにいると知らせたい
黙ってたら
気づかれない
愛しても
忘れられる
ジタバタして
大声で
無視するのはやめて欲しい
待つだけじゃ
息が詰まる
「どうしても考えてしまう」
「私から何を奪うつもり?
思考を停止させる
静寂は暴力だ」
直前の諦める雰囲気の歌詞から一転、最後は1~2人ずつ、それぞれの想いを叫ぶような歌詞になります。
これら一つ一つの声は抑圧された「私」の中から湧き上がってくるものでしょう。または、もしかすると世界中の様々な人の心の声かもしれません。
「待つだけじゃ 息が詰まる」の「待つ」とは、これまで語られていたような、何もせずにいつ終わるかわからないコロナ禍の終了を待つということでしょう。
その後の「どうしても考えてしまう」という言葉がこの歌では大きな意味を持ちます。
1番の最初で「あれこれ弱音思い浮かべても」とネガティブな意味で語られていた「思考」が最後に、抵抗するような心の声が語られた後に位置することによって、「完全に抑圧できない強さ」を感じさせます。
「静寂」が「暴力」である理由が「思考を停止させるから」だとすれば、それに抗うのは「思考を停止させないこと」でしょう。
そのように考えれば、「どうしても考えてしまう」と思考を止めないことこそ「静寂の暴力」を打破する唯一の力となるはずです。
「静寂は暴力だ」の本当の意味とは?
ここでもう一度最後の「思考を停止させる 静寂は暴力だ」について考えてみます。
さっきは「思考を停止させる(から)静寂は暴力だ」という風に解釈をしました。それも一つ成り立つとは思いますが、(様々な静寂がある中で)「思考を停止させる静寂」は暴力だ、と考えるとまた新たな見え方が生まれます。
「思考を停止させる静寂」とは、深く考えずに「静寂(沈黙・自粛)」を強要する世の中の圧力ではないでしょうか?
コロナ禍の中では、これまでにない様々な事件が起きました。例えば「マスクを着けていない」という理由で暴力を振るったり、自粛期間の中で他県に行った人をネットで叩いたり、おしゃべりしている人を怒鳴りつけたりなどです。
それらの多くは「コロナ期間だから話すな!コロナ期間だからマスクをつけろ!」と「思考停止」に陥り、こちらにも「思考停止」を強要しています。
そんな正体の見えない「世の中」「世間」の抑圧を「思考を停止させる静寂」と表現しているのではないでしょうか?
最後に
いかがだったでしょうか?
コロナの文脈でなくても読解は可能かもしれませんが、あえてその読み方を前面に出しました。それは当時の記憶を風化させないためです。
コロナが終息してからしばらくが経ち、世の中には「日常」が戻ってきました。
ですが、「櫻坂の詩」や「静寂の暴力」などの中にはコロナ当時の記憶が刻まれています。この歌が発表された当初は、誰もが自然とコロナの頃を想起したと思います。しかし、数年もすればその文脈が通じなくなっていくでしょう。
その時に、この考察が残れば良いと思います。
【2025.512 四期生ドキュメンタリーで「静寂の暴力」が課題曲に!】
櫻坂46に新たに加入した四期生が初めて披露する曲が「静寂の暴力」に決まりました。四期生9人の中で最年長の勝又さんは21歳。最年少の山田さんは16歳。それぞれコロナ禍の時に、貴重な学生時代を送ったメンバーです。
まだこの記事を書いている最中は合宿前半の映像しか公開されていませんが、どのような「静寂の暴力」に仕上がるでしょうか。楽しみですね!
長くなりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました!
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