こんにちは!
合唱コンクールや卒業式で「君とみた海 」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。
そんな風に感じていませんか?
私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。
なんとなくのイメージで歌うのと、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後に歌うのとでは、気持ちの込め方も全く違うものになります。
ぜひ、「君とみた海」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!
基本情報と歌詞のポイント
合唱曲「君とみた海」は中学校の合唱コンクールなどで歌われることが多い人気の曲です。作詞・作曲を手がけた若松歓さんは他にも様々な合唱曲やNHKの「みんなのうた」などでも編曲を手がけています。
前奏のキレイなピアノの音色が印象的な曲ですね。
一見すると雄大な海のイメージで気持ちよく歌う曲に見えますが、本当はどんな歌なのでしょうか?
この歌には主人公と「君」の二人が出てきますが、詳しいストーリーなどは語られず、謎が多くあります。
しかし、歌詞の所々に解釈のヒントとなる言葉が散りばめられていますので、それらを元に一つのストーリーを考えてみましょう。
まだ聴いたことがない人はこちらから聴いてみてください。
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それでは、
■この詩全体を貫くストーリーとは?
■どのような気持ちを込めて歌えば良いのか?
について考えていきましょう!
目次
歌詞に沿ってストーリーをチェック!
【1番】「君」に何があったのか?
暑い八月の海で 風に体つつまれて 眩しい水平線を眺めてる君
君の乾いた素肌に 涙こぼれている
重ね過ぎた悲しみ 少しずつ砂ににじませてくように
海よ 海よ 海よ
素直な気持ち気づかせてくれる
君とみた夏の日の思い出は いつまでも 輝いてる
この歌詞は話者の一人称視点で描かれていて、話者の呼び方は登場していません。
今回は話者を「私」と統一したいと思います。
舞台は八月の海。二番からはここが「故郷の海」だということも分かります。
「君」は海に入って泳ぐわけでもなく、おそらく膝を抱えながら、砂浜に座って、海とその向こうの水平線をただ眺めています。
その膝や腕には涙がこぼれますが、それを堪えるわけでも拭うわけでもありません。
「私」の方も、そんな「君」を見つめながら、手を差し伸べるでもなく、一緒に海を見ながら物思いにふけっているのでしょう。
「素直な気持ち気づかせてくれる」とは誰の、どんな気持ちなのでしょうか?
2番「悲しみ」の中身
広い故郷(ふるさと)の海で 波に心あずけながら
静かなやさしい歌を 口ずさむ君
人は微笑む数だけ 悩み苦しむけど
忘れかけた何かを ここでならきっと見つけられるはずさ
さきほども書いたように、この海は二人にとっての「故郷」だということが分かります。
「故郷」という言葉は、地元を一度離れた、または離れる視点から語られるものです。
恐らく「私」か「君」は一度故郷を離れ、今ここに戻ってきているのでしょう。
「君」が口ずさんでいる歌は、明るく元気な曲ではありません。
涙を流して海を眺めながら「静かな 優しい歌」を歌っている「君」が抱える悲しみとは何でしょうか?
それは
という歌詞にヒントがあります。
「微笑む」ことが、なぜ悩みや苦しみにつながるのでしょうか?
それは様々な人間関係の中、笑顔で自分の気持ちを押し殺しているうちに、心が病んでいってしまったことを表しているのではないでしょうか?
「忘れかけた 何か」とは都会の生活の中でずっと押し殺していた、人間としての喜怒哀楽であり、それを取り戻すために、故郷に療養に戻ってきているのかもしれません。
3.何に気づく?
海よ海よ海よ
限りない夢 いだかせてくれる
果ての無い青空に 続くように どこまでも 広がってゆく
海よ海よ海よ
大切なもの 気づかせてくれる
君とみた夏の日の 思い出は いつまでもいつまでも輝いてる
1番にも「素直な気持ち 気づかせてくれる」とありましたが、ここでも「限りない夢」や「大切なもの」という言葉が同じように使われています。
ここで考えるべきは、それらの「気持ち」「夢」「大切なもの」は「誰のものか?」ということです。
例えば「素直な気持ち」を「君」のだと考えた場合、これまで「微笑み」の下に押し殺してきてしまった気持ちを海がほぐしてくれる、と考えることもできるかもしれません。
ですが、それら3つを「君」のものとするストーリーであれば、「君」自身が一話者となり、一人称視点で、気持ちを取り戻していくことを語っていく形で充分です。
それでは、「私」の存在意義がなくなってしまいます。
また、「素直な気持ち(大切なもの) 気づかせてくれる」の直後に「君とみた~」と続いていることからも、ここは一貫して話者である「私」目線からの「夢」や「大切なもの」と考える方が自然だと思います。
そして当然、これらの気持ちは「君」と関わるものでしょう。そうでなければ、この場面で語られる意義が全くありません。
全てをまとめるとどのようなストーリーになる?
ここまでのポイントをまとめると、どのような統一的なストーリーが考えられるでしょうか?
妄想あふれるストーリー仕立てで考えてみたいと思います。
■「君」と「私」の物語
【プロローグ】
「私」と「君」は海辺の田舎町の生まれで、幼なじみ。他に同い年の子どもは、おらず、いつも一緒に遊んでいた。
お互いに心惹かれながらも、それを打ち明けることはなく、時だけが過ぎる。
大きくなり、将来について考えるとき、家業を継ぎ、地元に残る「私」に対して、「君」はこの田舎町を出て行くつもりだと告げる。
引き止めることも、このタイミングで気持ちを打ち明けることも出来ない「私」は、別れの日に「君」を見送ることしかできなかった。
【数年後】
月日が経ち、仕事に打ち込んでいたある日、突然「君」が帰ってくるという知らせを受ける「私」。
いてもたってもいられず、話したいこともたくさんあると、駅まで「私」は「君」を迎えに行くが、2輌しかない電車から一人降りてきた女性は、昔の日に焼けた、天真爛漫な「君」とは似ても似つかなかった。
ただ黙ってうつむく青白い「君」を見て、盛大な歓迎会などはできる様子でもなく、その日は「君」の家に、送り届けるだけして自分の家に帰った。
「君」の母親によれば、慣れない都会の中で、一生懸命に頑張っていたが、、次第に心を病んでしまい、仕事も辞めて、逃げるようにこちらに帰って来たとのことだった。
その後の数日間、少しずつ通いながら「君」の話を聞いていったが、「君」が笑うことは一度もなかった。
【本編】
そんな中で「私」は「君」を海へ連れ出す。
砂浜を二人で歩きながら、昔のあれこれを話していると海の中で無邪気に遊ぶ、昔の自分たちが見えるような気がしてきた。
腰を下ろし、そんなことを話していると、「君」の目からは涙がこぼれるが、それを「君」は拭おうともしない。
そんな「君」の姿を見ていると、別れるときに「素直な気持ち」を伝えられなかったこと、仕事や目先のことなんかよりも「大切なもの」に気づけなかったことに対する後悔が湧き出てくる。
それでも、今から二人の時間を過ごしていくことは出来ないだろうか・・・。
気持ちを伝える決意をすると、二人で作るこの先の「夢」が一つ、また一つと「私」の頭には浮かんでは消えていった。
二人で海を眺めながら「私」はそんな、これまでとこれからのことを一人考えていた。
いかがでしょうか?
無理やりながら、それぞれの歌詞の解釈を詰め込んでみました。
個人的に「限りない夢 いだかせてくれる」だけが、この「悲しみ」の傷心の海というイメージに少し合わない気がして、かすかな違和感が残りますが、「限りない」を大海原!というような「スケールの大きさ」ではなく、ぽつりぽつりと1年後の2人、5年後の2人・・・と止めどなく夢が浮かんでいるということで解釈しました。
みなさんの考えるストーリーも、ぜひ教えてください。
どうやって歌う?
二人の物語を詳細に想像して、隣に座る「君」に心を配るとき、本当に「気持ちのこもった」歌声が生まれると思います。
授業での主な発問
①「重ねすぎた悲しみ」とあるが、君に何があったのか?
②「素直な気持ち」「忘れかけた何か」「大切なもの」とは何か?
③「海よ 海よ 海よ」はどのように歌うと良いか?
最後に
■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、歌詞を配って、「重ねすぎた悲しみ」だけでも検討してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。
■2人のストーリーも一人一人に考えさせてみると多様なアイディアが出てきて面白いです。「妄想」レベルでもそれぞれ認めてあげて、楽しんでください。
他の合唱曲の歌詞分析はこちら ↓
※音楽の授業、または合唱部や合唱コンクールでメンバーに投げかける場合の基本的な流れなどもこちらに書いていますので、ご覧いただければ幸いです。