合唱 歌詞 解釈

合唱曲「時の旅人」の歌詞の意味を深く考察!〜「なつかしい明日」とは?〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「時の旅人」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「時の旅人」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

歌はこちらから聴けます。

「時の旅人」は「Chorus ONTA Vol1」に収録されています。

 基本情報と歌詞のポイント

合唱コンクールで人気の「時の旅人」。
作詞は深田じゅんこさん、作曲は橋本祥路(はしもとしょうじ)さんです。

橋本祥路さんは「時の旅人」「カリブ夢の海」「夢の世界を」など様々な合唱曲の作曲者として知られています。教育芸術社専属の作曲家として活動されているそうです。

Wikipediaには【1967年から本格的な作曲活動を始め。当初は出版社で編集の仕事をしながら作曲活動をしていた。それまでの合唱曲集はクラシックの歌曲が多かったが、当時合唱曲集の編集をしていた橋本は、「皆が歌えて、楽しめる合唱曲集」を編集テーマに設定し、そのテーマに基づきフォークソングの『翼をください』を合唱曲用に編曲して収録した。】とあり、「皆が歌えて、楽しめる」というのはこの「時の旅人」のパート構成にも反映されているように見えます。

一方で、作詞の深田じゅんこさんについてはネット上には詳しい情報がほとんどありません。ただ、次の「東海新報の記事」によると、岩手県盛岡市の人であることと「空~ぼくらの第2章~」という東日本大震災をきっかけに作られた曲の作詞を担当されていることだけは分かりました。

こちらもとても良い歌ですので、動画を載せておきます。

歌詞の流れに沿って情景をチェック

過去から未来へ

それでは、それぞれの歌詞の情景を考えてみましょう。

【前半】
めぐるめぐる風 めぐる思いにのって
なつかしいあの日に 会いに行こう
めぐるめぐる風 めぐる思いにのって
ぼくらは 時の 時の旅人

忘れかけていた日々
すべてのものが 友達だったころ

汗をぬぐって歩いた道 野原で見つけた小さな花
幼い日の 手のぬくもりがかえってくる
汗をぬぐって歩いた道 野原で見つけた小さな花
幼い日の 手のぬくもりがかえってくる

やさしい雨にうたれ 緑がよみがえるように
ラララ
涙のあとにはいつも君が
そばにいて生きる喜び 教えてくれた 教えてくれた

今君と(一緒に)未来へのとびら開こう
今君と(一緒に)あふれる希望を歌おう

半最初の6行は、物語が始まる前のプロローグの役目を持っています。演劇で言えば、まだステージの照明は消えている中で、ナレーターか主人公の声だけが最初の4行をゆっくり語り、次の2行で風の音がしながら、場面が昔へと転換していくようなイメージです。

「なつかしいあの日」とは「すべてのものが 友達だったころ」と同じころでしょうから、まだ物心がつく前で、虫とかも嫌がらずに平気で触っていたような小さい頃だと思います。

次の「幼い日の手のぬくもり」もそんな年頃に親と手をつなぎながら歩いていた頃の「ぬくもり」でしょう。

ここでは「ぬくもりが かえってくる」となっていて、視点が現在の自分から見ていることが分かります。

その後の「やさしい雨にうたれ~」からは「幼い日」よりも時間が経過し、「君」とのこれまでの日々が思い出される歌詞になっています。

次の2行は、これまでの「過去」から転換して、「未来」への想いを歌っています。ここでも「君」が大切な存在として歌われています。

では「君」とは一体誰なのでしょうか?それは最後にまとめて考えてみます。

この歌のメッセージとは?

【後半】
めぐる風めぐる思いにのって
素晴らしい明日にあいに行こう
めぐる風めぐる思いにのって
なつかしい明日にあいに行こう
めぐる風めぐる思いにのって
素晴らしい明日を(あふれる希望を)歌おう

ぼくらは旅人 夢の旅人
ラララ ララーラー ララーラー 旅人
ぼくらは旅人 時の旅人
ララーラー ララーラー ララー

後半の優しいメロディーの大部分はそのままの意味で、分かりにくい言葉はありませんが、唯一「なつかしい明日」だけ、日本語としては矛盾していて謎めいています。

この言葉をどう捉えるかで、この歌詞のメッセージが変わってくると思います。

最初に書いたように作詞者の深田じゅんこさんについては、詳しく分からない点も多く、メッセージなども見つからないのですが、作曲者である橋本祥路さんはこの歌についてとても詳細な解釈を語っています。

それは「DVD 橋本祥路 合唱の心を伝える(教育芸術社)」という映像の中で、橋本祥路さんがこの「時の旅人」を中学生相手に歌唱指導しており、その中で「自分はどんな風に歌詞を解釈してこの曲に仕上げたか」というのを繰り返し強調しているのです。

その中で、特にこの歌のメッセージについて語っている部分を2つ引用します。重複している部分もありますが、それだけ作曲者の想いが強く出ている部分と言えるでしょう。

【作曲者橋本祥路先生からのメッセージ】
 「時の旅人」の特徴は、一つは合唱を楽しめるように、各パートにメロディーが必ずあるというようにつくりました。
 ソプラノ、アルト、テノールの各パートが活躍できる場面をつくりました。
 合唱の場合には、ともするとハーモニーを作るパートにはメロディーがない場合が多いですけども、この合唱の特徴は、それぞれの旋律が、たとえば中間部では、その旋律が三つ重なって出てくるというようなことが、まず一つの特徴といえます。
 それから、詩の背景を考えて、特にこの全体の詩としては「今いることが美しい過去、あるいはよかったこと、それから未来、その行き来する時空があるわけですけど、現在を一生懸命生き抜いていく」というふうな詩の読み取りをして書きました。特に男声が「いまきみと」と歌う部分は今の時間を一生懸命生き抜くという意味からも、男声パートには非常に高いレの音が出てきていますが、そこは生き生きと歌っていただきたい。
 全体は長めにつくられていますが、それぞれの部分あるいはその言葉一つ一つにそこのイメージをもって、自分たちなりに表現をしていただくといいかなと思います。
【歌唱指導中の中学生への説明】
 この「時の旅人」っていう題名は何を言いたいのか考えた。
前半部「めぐる風」「忘れかけていた日々」「幼い日の手のぬくもりが帰ってくる」と過去を回想する部分がある。それから「やさしい雨にうたれ」からは未来に向かって頑張ろうとなっているところがある。だから「過去と未来に向かってがんばろう」というところが非常に強調されて書いてある。

 日本語として成立していない言葉がある。これキーワードになりますね。「なつかしい明日に会いに行こう」、過去と未来が同居しているから普通は使わない。
 「現在」が「過去」と「未来」を作っていく。現在を一生懸命生きることで良い過去ができる。良い未来を想像して、今一生懸命頑張れば、それが良い過去になる。そう考えれば「なつかしい明日」という言葉も成立する。
 最初は「時空を旅する」ということだと思っていたんだけれど、そうではなくて「今、一秒を一生懸命生きることによって良い過去と未来ができる」、だから「いまきみと」の部分に男声の一番高いレの音が出てくる。だからそこはもう綺麗に歌うとかではなくて、もう雄叫びを上げるくらい本当に今友達と「君と一緒に生きていこう!」と強い気持ちで歌う。乱暴な言い方をすれば音程がいいとかではなく、自分のエネルギーをどれだけ伝えられるかが勝負なんですね。ここは。そういう気持ちで書いたんですね。

 日本語は自分がもっている心が語感となって伝わっていきますから、エネルギーが。強調したい部分から優しくする部分まで。

 僕は曲を書くときは必ず音読をします。そしてそういう言葉が音楽になるようにしていく。

この他にも橋本祥路さんは、歌唱指導中に何度も生徒に朗読をさせたり、「歌っちゃダメなんだよ」「音符を歌うんじゃないんですよ」「語るように」など、「歌詞の意味・イメージをとらえて」という指導を繰り返しされています。恐らく、誰よりも歌詞を読み込んで、歌詞と向き合って作曲しているという自負があるのでしょう。そんな強い想いも感じられる映像でした。本気でこの歌について考えようと思うなら、一度は見ておきたい映像です。

 さて、これらのメッセージを踏まえると、「なつかしい明日」というのは【「現在」が「過去」と「未来」を作っていく。現在を一生懸命生きることで良い過去ができる。良い未来を想像して、今一生懸命頑張れば、それが良い過去になる。そう考えれば「なつかしい明日」という言葉も成立する。】という解釈ができると思います。

 「現在」が「未来」を作っていくというのは、分かりやすいと思いますが、「過去」を「作っていく」とはどういう意味でしょうか。

例えば、就職活動で本命のA社には落ちてしまい、B社に入社したとします。その後に「ここは本命じゃないしな…」と腐ってしまっては「過去」が「失敗」になってしまいます。

ですが、「本命じゃなくても頑張ろう!」と一生懸命「現在」を生きて、仲間が増えたり、やりがいを感じるようになれば、「あの過去があったから、B社での楽しい現在がある!」とむしろ「成功」のように感じられるはずです。
これが「現在」が「過去」も「作っていく」という意味だと思います。

よく聞く名言に「他人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来だけ。」という言葉がありますが、私は「過去の事実は変えられないが、過去の意味は変えられる」と思っています。橋本祥路さんの説明からもそんなメッセージを感じました。

「時の旅人」というのは超能力のように時間を旅するのではなく、世界中の誰もが「現在」を一生懸命生きることで、「過去」や「未来」を作っていくんだということなのでしょう。

「君」について もう一つのストーリー

橋本祥路さんのメッセージを元にすれば「君」というのは、「過去」からの様々な「自分自身」という風に考えられます。「幼い頃の自分」「物心ついた頃の自分」「思春期の自分」など、さまざまな「自分達」と一緒に「現在の自分」も成長していっているというイメージです。

これも一つの魅力的な解釈です。

ただ、ここではもう少し「物語」としてストーリーを重視した解釈を考えてみたいと思います。

それは「君」=「自分の子供」という解釈です。

この曲の出だしの「めぐる風」とは小さい自分の子供と手をつないで外を歩いていた時に吹いてきた風です。その風をきっかけに「自分もこんな風に親と手をつないでいた日があったな」と回想シーンになります。「幼い日の手のぬくもり」を今は親側の目線で感じているのです。

「緑がよみがえるように」という表現は「生命」や「季節の循環」を感じさせます。

いつも「君=子供」がそばにいてくれて、これからの未来も一緒に歩んでいくというのはイメージがしやすいですし、こう捉えると季節が巡るように、風が巡るように、命も親から子へ、そしてまたその子が親になって次の子へ、という風に巡っていくという物語が感じられます。

「ぼくらは旅人」と主語が大きいのも、人類はそうやって何世代にもわたって、親から子への旅を巡ってきたのだと考えると納得できるでしょう。

橋本祥路さんの解釈が「メッセージ重視」だとすれば、この解釈は「ストーリー性重視」だと言えるでしょうか。

様々な解釈ができるのが、こういった歌詞の楽しみでもあるので、これ以外でも皆さんの考えを深める参考になれば幸いです。

授業で扱う場合(主な発問や展開)

「時の旅人」は、解釈のヒントになるような言葉は少なめの曲だと言えます。ですので、様々な捉え方が出てくる楽しさがあるでしょう。大切なのは橋本祥路さんがレッスンで言っているように、自分なりに「言葉のイメージ」を膨らませながら、それを歌声で表現するという姿勢だと思います。

時間がなければ、橋本祥路さんや私の解釈を紹介するだけでも良いと思いますが、ぜひ、以下のような点について、みんなで考えながら、この歌の世界を深めていってください。

【発問例】
①「なつかしいあの日」とはいつ頃のこと?
②「君」とは誰のことを指しているか?
③「なつかしい明日」とは何を表している?
④「時の旅人」とは何を表しているのか?
⑤この曲に込められたメッセージとは?。

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

また、先にも挙げた 「DVD 橋本祥路 合唱の心を伝える(教育芸術社)」 は、「時の旅人」以外にも「夢の世界を」「童神 天の子守歌」について指導が様子が収録されており、曲そのものの理解だけでなく「合唱」そのものへの理解も深まります。ぜひ、機会があれば観てみてください。

その内容のエッセンスがこちらの記事ではまとめられています。こちらもご覧になると、より曲への理解が深まると思います。

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