こんにちは!
合唱コンクールや卒業式で「HEIWAの鐘」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。
そんな風に感じていませんか?
私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。
なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。
ぜひ、「HEIWAの鐘」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!
歌はこちらから聴けます。
ONTAでは「Chorus ONTA Vol.11」に収録されています。
基本情報と歌詞のポイント
中学校の合唱コンクールを中心に幅広く歌われている「HEIWAの鐘」。
この曲は、作詞・作曲ともに仲里幸広(ユキヒロ)さんが手がけています。
仲里さんは沖縄生まれの方で、元は「ニーニーズ」というお笑いコンビとして活動していましたが、2000年2月22日に解散し、そこからはユキヒロという名義で音楽活動に専念し、同年5月15日に「HEIWAの鐘」をリリースしたそうです。
それが同年7月、第26回主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)で紹介されて注目を集めたことをきっかけに合唱曲としても編曲され、2005年には高校3年生の音楽の教科書にも採用されました。
この曲を作るきっかけとして、仲里さんは『エッセイ – 「心から出ず(いず)。願わくは心に至らんことを」』という記事で以下のように語っています。
沖縄に住んでいる頃はこういった事件や事故は日常的な出来事であったため、怒りと悲しみの気持ちはあったが残念ながら、そのことに対して行動を起こすまでには至らなかった。
しかし、沖縄を離れて沖縄への想いが強くなった。このままでは自分の故郷が危ない、平和のために何ができるだろうか。沖縄のために何ができるだろうかと真剣に考えるようになった。ボクにできること。それは音楽で平和のメッセージを届けることだと思った。
この記事には他にも「HEIWAの鐘」に込めた想いや、そこから生まれた活動についても詳しく書かれていますので、お時間があれば読んでみてください。
また、「HEIWAの鐘」というタイトルやポップな曲調については仲里さんのオフィシャルHPに以下のように書いてあります。
平和への思いって、みんな人それぞれで、重い表現もあるでしょうけれど、僕は堂々と、平和な未来をみんなでつくっていこうよ、という気持ちでつくりました。
「HEIWA」とローマ字で書いた。
僕は漢字の「平和」も好きな文字だけれど、何か重くて、あるいは固定したイメージになってしまいがちではないかと思うんです。
そして、一部の人たちの特別な話にとられてしまったりする。
平和と聞いて、あ、それはもういいです、とかなってしまう。
それがなぜか「ピース」だと、にこやかな感覚になる。
なんとなく世界共通ですよね。
そうやって、距離を縮めて身近なものにできたらな、と。
もちろん、戦争の悲惨さを熱く語ることは大事です。
でも楽しく語る表現があってもいい。
その中にも、平和っていうメッセージが感じられるんじゃないかな。
このページには、上記の引用部分以外にも「HEIWAの鐘」のそれぞれの歌詞についての解釈なども書いてあるので、ぜひお読みください。
※ちなみに「平和の鐘」と調べると国連にある「平和の鐘」など、実在の鐘についての情報が出てきますが、仲里さんのインタビュー等、様々な情報を調べてもそれらとの関連性は特になさそうでした。
これらを踏まえつつ、歌詞を見ていきましょう。
歌詞の流れに沿って情景をチェック
1番 過去を学びながら
よみがえれ あの時代(とき)へ
武器を持たぬことを伝えた 先人たちの声を
永遠(とわ)に語り継ぐのさ
脅かすことでしか 守ることができないと
繰り返す戦争(つみ) 忘れゆく 愚かな 権力(ちから)よ
いつか自由な空が 虹かかる 翼ひろげゆく
風に高く大きな幸せ贈るだろう
風に幸せ贈るだろう
歌の出だしは「よみがえれあの時代(とき)へ」から始まります。
「あの時代」とはいつのことを指しているのでしょうか?
その直後の「先人たち」は先ほど紹介したオフィシャルHPの中で
貿易国としてすごく栄えたから、いろいろな商人が来る。
貿易ができるということは、平和で、誰でもウェルカムで、食事も音楽も楽しんで人々が安らげる国だったんですね。
それがいい貿易国の条件ですから。
そういう意味で世界から愛される国だったんです。
それがナポレオンにまで伝わって、彼は手記の中でこう書いている。
「この世の中に、武器を持たぬ国というのが本当に存在するのだろうか? もしそれが事実なら私もその琉球へ行ってみたい」これって、すごいことじゃないかと思う。
と仲里さんが書いているように「平和な琉球王国時代の人」と解釈できます。
それを踏まえると「琉球時代のような平和な時代をもう一度現代によみがえらせよう」という意味だととれるでしょう。
その平和な様子がナポレオンのいるフランスまで当時伝わっていたとは驚きですね。
※非常に細かいことですが、仲里さんは「ナポレオンの手記」と書いていますが、実際には囚われているナポレオンと面談したバジル・ホールが書いた「ナポレオン面談記録」(1817年)の中に見えるようです。「琉球」のことが「ルーチュー」として詳しく語られています。
そういった平和な時代の精神を、過去の戦争に学ばない権力者たちにも伝えていこうというメッセージが読み取れます。
現代の日本では「戦争」と聞くと、まず太平洋戦争が頭に浮かびますが、ここでは後に「この地球」と歌っていたり、「九州・沖縄サミット」の直前に発表されていることから、世界中の様々な戦争とそれに関わる権力者たちへのメッセージとなっているのではないでしょうか。
「いつか~幸せ送るだろう」までは、そんな平和な時代がよみがえった時のきれいな光景を描いていると考えられます。
サビ 握った拳を広げて
ぼくらの生まれたこの地球(ほし)に
奇跡を起こしてみないか
拳(こぶし)をひろげて つなぎゆく
心はひとつに なれるさ
平和の鐘は 君の胸に響くよ
このサビの部分は2番と合わせて4回も繰り返されます。この中には様々な比喩的表現が見られます。
「奇跡」とは「世界中から争いをなくすこと」でしょう。
「拳をひろげて つなぎゆく」とは、相手を殴るための握り拳を開いて、協力のために手を取り合うという意味だととれます。殴るのも、協力するのも、同じ手によるものだという表現が詩的ですね。
ここでの「平和の鐘」というのは実在するものではなく、比喩だと考えられます。「鐘」の音というのは、遠くまで聞こえるものとして、よく描かれます。ここでも、誰かの行動や呼びかけによって鳴った「平和への意志」が、鐘の音のように遠くの「君」や誰かの胸にまで響いていく、というように世界中に広がっていくイメージでしょう。
ここには2番の歌詞にも通底する「一人一人の小さな行動や呼びかけが、いずれ世界を変えていくんだ」というメッセージ性を感じます。それこそがこの歌で伝えたいことではないでしょうか。
2番 奇跡は世界中の一人一人から
歌い踊り 助け合った
振り向かず 笑い続けた
誇る島の魂を 永遠に守り抜くのさ
銃声が鳴り響き 海や大地が砕け散る
正義の叫び こだまする フェンスを飛び越えて
君が一人立てば 変わるのさ 明日へ輝いて
ずっと 未来の夢を ここに残してゆこう
ぼくらの生まれたこの地球(ほし)に
奇跡を起こしてみないか
拳(こぶし)をひろげて つなぎゆく
心はひとつに なれるさ
平和の鐘は 君の胸に響くよ
2番の「唄い踊り 助け合った」は琉球王国のイメージにも、現代の沖縄の方々のイメージにもとれますが、「振り向かず 笑い続けた」の「振り向かず」とは何でしょうか?
これは琉球王国から現代まで、様々な支配体制の移り変わりや、戦禍による被害を受けながらも、前を向いて生きてきた島の人々の魂を歌っていると考えられます。
※沖縄の歴史については、ここで単純には延べられませんので、「琉球処分」や「地上戦」「本土復帰」などで調べていただければと思います。
「銃声が~フェンスを飛び越えて」までは、直接的には太平洋戦争でアメリカ軍が沖縄に上陸してきた時の様子や、その後の米軍基地の「フェンス」が想像されます。
ですが、それと同時に世界中の様々な争いに対して「フェンスを飛び越えて」訴えていく必要性が込められています。
この「フェンスを飛び越えて」について仲里さんはオフィシャルHPの中で、
だから、根本は何かといえば、やっぱり戦争をやったらだめなんですよ。
軍隊も。だって、「平和のための戦争」って、どう考えたって矛盾した馬鹿げた話ですよね。
過去の戦争を見ても、日本の戦争も含めて、武力では人の心は支配できないっていうのは明らかなのに、それを学ぶことができずにいる。
誰も得をしないし、どこにも正義はない。
そういうことを、僕ら一人ひとりが考えなくちゃいけないな、と。
こんなの、右も左もなくて、普通の考えだと思うんですよ、人として。
まさに『HEIWAの鐘』で、僕はそういうメッセージを発信したかったんです。
「フェンスを飛び越えて」自分の思っていることを言う勇気を持とうよ、と。
と言っています。
それは「日本」と「アメリカ(軍)」の間にあるフェンスを越えるように、人種の間を越えて、一人一人の思想の違いも越えて、ということを表しているのでしょう。
「君が一人立てば~」」からは1番の同じ部分に比べて呼びかけるメッセージ性が強くなっています。
サビの部分で確認したように、一人一人の一見小さな行動こそが、鐘のように遠くまで響いてやがて世界を変えていくということを言いたいのでしょう。
「ずっと 未来の夢」というように、それはだいぶ先の未来の話かもしれません。
しかし、琉球王国のような平和な場所・平和な時代の存在を知って、それを信じることができれば、時間はかかってもいつかそのような世界を創り上げることができるだろうという希望のメッセージを感じる歌だと思います。
まずは、一人一人の身の回りの人と心を通わせ合って歌ってみてください。
授業で扱う場合(主な発問や展開)
これまで見てきたように「HEIWAの鐘」には比喩的なメッセージ性のある表現がたくさんあります。
それらを読み解きながら、現代の戦争や、過去の戦争、そして身近な人たちでの争いなどについてもう一度考え、学び、想いを馳せてみることこそが、この歌に力を与えてくれるのではないでしょうか。
先ほど挙げた、「ナポレオン面談記録」の中で、バジル・ホールが琉球の人たちが平和で武器を持たないと報告しても、なかなか想像できていない様子が記録されています。まずはそのように「平和」というものの存在を知る・学ぶということが大事な土台となるでしょう。
合唱コンクールなどで歌う際には、ぜひそのような「戦争」や「平和」についても考えてみてください。
①「あの時代」「先人たちの声」とはいつの時代で、誰のことか?
②繰り返す「戦争」、愚かな「権力」とは、どの戦争や誰のことを指しているか?
③「奇跡」とは何を指しているか?
④「拳をひろげてつなぎゆく」とはどんな比喩か? ⑤「平和の鐘」とは何を象徴しているか? ⑥「振り向かず 笑い続けた」とはどのようなことを指しているか? ⑦「フェンスを飛び越える」とは何のフェンスか?何を表しているか? ⑧この歌を歌って、誰に、どんなメッセージを届けるか?
最後に
■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。
他にも仲里幸広さんの人となりが分かるインタビューとして以下の記事も紹介しておきます。この歌の歌詞には直接関わらないかもしれませんが、より深く知りたい方は読んでみてください。
※仲里さんのお笑い芸人時代から今までを振り返るインタビュー
また仲里さんは「HEIWAの鐘」の他に「今日から明日へ」という曲も出されていて、こちらも高校2年生の教科書に採択され、合唱曲にもなっています。こちらもぜひ聴いてみてください。
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