合唱 歌詞 解釈

合唱曲「エトピリカ」の歌詞の意味を深く考察!〜過酷な大自然の風景〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「エトピリカ」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「エトピリカ」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

歌はこちらから聴けます。

ONTAでは「Chorus ONTA Vol.3」に収録されています。

「エトピリカ」について

そもそも曲名となっている「エトピリカ」とは何なのでしょうか?これは北の海に生きる海鳥で、日本では北海道周辺に生息しています。見た目は以下のような鳥ですね。

「エトピリカ」という名前はアイヌ語で「美しい嘴(クチバシ)」を意味するそうです。

これを踏まえて、歌詞について考えていきましょう。

 基本情報と歌の背景

中学校の合唱コンクールで歌われることの多い「エトピリカ」は作詞者・更科源蔵(さらしな・げんぞう)の詩に、作曲者・廣瀬量平(ひろせ・りょうへい)が曲をつけた合唱組曲「海鳥の詩」の一曲として、長年にわたり多くの人々に感動を与え続けている名曲です。

この歌に込められたエネルギーを理解するには作詞者である更科源蔵さんの生い立ちと、「海鳥の詩」という全体像を知る必要があります。

更科源蔵さんは1904年に北海道に生まれ、81年の生涯の大半を北海道で過ごしました。
組曲「海鳥の詩」は同じく北海道出身の作曲家である廣瀬量平さんがNHKからの依頼を受け、更科源蔵さんの46歳の時に書いた第3詩集「無明」から「オロロン鳥」と「海鵜」を選び、更に「エトピリカ」を更科源蔵さんが書き下ろし、全3曲の組曲として発表しました。さらに出版の際に新たに更科源蔵さんが「北の海鳥」を書き下ろし、全4曲の組曲として出版されました。
混声版出版譜の前書きには【暗くわびしい日本の運命的な時代を生きた私(更科)自らの姿を、荒くきびしい風土の中で生きる北の海鳥の姿に託してうたったもの】とあるように更科源蔵さんの生涯に密接にリンクしていると言えます。

更科源蔵さんの生涯についてはこちらのサイト「原野の詩人・更科源藏」に非常に詳しく載っていますので、興味があれば読んでみてください。

その中でも更科さんは明治時代の開拓時代の北海道を過ごしていることや、自分が結核で苦労したり、妻を肺炎で亡くしていたりと様々な困難を経験していることは「海鳥の詩」にも影響を与えていると思われます。

また、同じく更科源蔵さん作詞の「蒼鷺(あおさぎ)」もこの世界観を理解する手助けとなるでしょう。こちらのサイト「合唱曲「蒼鷺(あおさぎ)」…歌詞に込められた思い②」に詳しい紹介があるので、参考になさってください。

組曲「海鳥の詩」の全体像

Wikipedia「海鳥の詩」の項目に全4曲のイメージが分かりやすくまとまっているので引用します。尚、それぞれの説明は混声版出版譜の前書きに載っているものだそうです。

1.オロロン鳥
 断崖の岩の上にとまり、黙々と海を見るオロロン鳥。孤独な漂泊の思いと彼方へのあこがれ。
2.エトピリカ
 霧の中をまっしぐらに飛ぶ不思議な鳥エトピリカ。その狂熱的なひたむきさ。りんりんと風は鳴り、今もまたエトピリカは一心不乱に飛翔する。
3.海鵜
 じっとうずくまる海鵜。あおく冷たくうねる寒流は磯に砕けて、その流れは行方も知れない。鵜は風や潮騒の音をきいているのだろうか。
4.北の海鳥
 きらめく北の海を飛ぶ海鳥たち。風雪をものともせず生と死のゆれ動くさなかを、力一杯に飛ぶ海鳥たちへの賛歌。

「エトピリカ」についてもこの4曲の中の1曲という位置づけを考えて、意味を捉えることが重要でしょう。では、歌詞についてみていきましょう。

歌詞の流れに沿って情景をチェック

【1番】
濃い霧にめしい
黒々と
波のどよめく
オホーツク
風は知る岩棚の
草原に首を振り
海を見 風をきく
エトピリカ

出だしから、北の海の厳しい情景が描かれます。

「めしい」とは「盲」とも書き、目の見えない状態を表します。先の見えない濃い霧と荒れ狂う波の海に面した岩棚にいるエトピリカの様子です。ここで想像してほしいのは、海と風の冷たさです。北海道の凍てつくような冷たさをイメージすることがこの歌にエネルギーを与えると思います。

【2番】
氷の臭いにしびれ
ぎこちなく
カタカタと翼ふるわせ
火を抱いて
ゴーゴーと鳴る
荒潮に生命(いのち)さぐる
エトピリカ

一番からの凍てつく寒さが2番でも続きます。1番の「めしい」が視覚、「波のどよめく」が聴覚で北の海の厳しさを表現していると捉えるなら、ここでは「氷の臭い」という嗅覚と、カタカタと翼ふるわせ、という触覚で表していると言えます。

「火を抱いて」や「命さぐる」とは、比喩でしょう。氷に負けない「火」は生きることへの執念や強い意志ととらえ、「命さぐる」は生き抜いていく道、渡るルートと解釈できます。

また、もう一つの捉え方として「エトピリカの生態についてのサイト」によると、海の上でなく、崖の上で過ごすのは繁殖期とのことなので、「火を抱いて」は卵を抱いて、「命さぐる」というのは卵の中の命の鼓動を聴いているのかもしれません。

【3番】
岩崖の土穴の
幼い生命(いのち)に
そうそうと
冠毛(かんもう)をなびかせ
目を見張り
霧にもめげずに飛ぶ限り
神はいる

「岩崖の土穴」にいる「幼い生命」という表現は生まれたばかりのヒナのことでしょう。そこから考えると2番の「火を抱いて」もやはり卵を抱いているのかもしれませんね。

「冠毛」とは、写真を見ると分かると思いますが、エトピリカに特徴的な後ろになびく頭の毛です。

最後の「神はいる」とは大自然の大いなる力のイメージだと思いますが、アイヌ民族と深い親交のあった更科源蔵さんの詞ですから、もしかするとアイヌ民族が信仰する神などがイメージされている可能性もあります。

授業で扱う場合(主な発問や展開)

ここまで見てきたように「エトピリカ」は歌詞自体がとても短く、謎めいた表現もありません。ただの「キレイな鳥の話」ではなく、北の海の厳しい大自然の中で命がけで生き抜いているというイメージをリアルに想像できると良いと思います。

そのため、以下のような発問について、全員で色々と想像して考えてみてください。
また、「エトピリカ」や「更科源蔵」や「海鳥の詩」について調べることもイメージを深めるのに役立つでしょう。

【発問例】
①舞台はどんな場所?何が見える?何が聞こえる?何を感じる?
②「火を抱いて」とは何を表している?
③「「生命さぐる」とは何を表している?
④歌に込められたメッセージとは?

更に深く調べたい人へ

①更科源蔵さんの「蝦夷征伐事件」について書いた記事「ふくろう通信

②「蒼鷺」の作曲者伊福部昭についての評論「評論|伊福部昭―独り立てる蒼鷺

③伊福部昭と更科について書いた非常に長い文章「ドキュメント「トロッタの会」」

④「蒼鷺」の歌詞についてひたすら議論する掲示板「アオサギは死んだのか?」

⑤エトピリカの生態について紹介したページ「海遊館だより

⑥エトピリカの嘴が取り外せることなどを書いたページ「【気になる生態】 #25 取り外せるクチバシ!? 「エトピリカ」」

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

 他の合唱曲の歌詞分析はこちら ↓ 

合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞の意味を深く考察! 〜曲名順に整理〜主に中学・高校の合唱コンクールや卒業式で歌われる合唱曲の歌詞について文学研究者の視点から考察しています。実際に歌う生徒さんや、指導される先生方の手助けになれば幸いです。...