こんにちは!
合唱コンクールや卒業式で「マイバラード」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。
そんな風に感じていませんか?
私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。
なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。
ぜひ、「マイバラード」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!
歌はこちらから聴けます。
ONTAでは「Chorus ONTA Vol.1」に収録されています。
基本情報と歌詞のポイント
「マイバラード」は小中学校を中心に幅広い人たちに愛されている合唱曲です。
この曲は、作詞・作曲ともに松井孝夫さんが手がけています。
松井孝夫さんは長年、中学校の教員をされていて、その中での生徒との交流を通して生まれた曲が多くあります。「マイバラード」「そのままの君で」「流れゆく雲を見つめて」などの作詞・作曲の他、卒業式でよく歌われる「旅立ちの日に」の編曲なども手掛けています。
この「マイバラード」は松井孝夫さんの作曲家としてのデビュー曲にあたり、その誕生の経緯は「特別寄稿 マイバラード ~届けたいメッセージ~」というページに詳しく載っています。
非常に長くなりますが、この歌の解釈にはとても参考になる記事だと思いますので、主要な部分だけ引用させていただきます。
松井孝夫(聖徳大学 音楽学部 音楽総合学科 准教授)
1.「自分」という殻を破り、「新しい世界」へと飛び込むエネルギーから生まれた歌
マイバラードを語るとしたら、時代をさかのぼること、今から39年ほど前の、私がまだ高校生だったころにタイムスリップします。
私が人生の中で初めて外の世界へ、一歩自分から踏み出そうと試みたのは、ほかでもない、地域のボランティア活動に参加してみようと思ったことでした。
「何か人のためになることをやりたい」「けれど何をしたらいいのか、今ひとつわからない」そんな状況の中で出会ったのが、自立支援サークル「ぽっぽ」だったのです。構成メンバーは、車いすを必要とする重度の障害を持つ人(主に脳性マヒといった病を抱えている方々)、またボランティアとして参加している人(これは幅広くて、大工さん、郵便局員、会社員、消防署員、学生、その他いろいろな職種の方がいて、とても新鮮なものでした)。
活動の中身は、普段あまり外出できない車いすの人たちを、公園、デパート、映画館、音楽会などに連れていき、一緒に楽しいひと時を過ごすというもの。このようなコミュニティの中で、いろいろな人同士がコミュニケーションを交わす中で、「他者を理解する」ことの大切さや難しさを学びました。
サークル活動をするうちにほどなくして、みんなで楽器を奏で、歌をうたう音楽活動をするようになりました。ある秋のこと、ステージで発表する機会をいただきました。そこで自分たちだけのオリジナル曲を歌おうという話になり、「それならば」ということで即座に作った曲が「ぽっぽのバラード」、のちの「マイバラード」でした。
2.歌に込めた思い
小林副代表が三和中学校を訪問。SAT隊の皆さんが素敵な歌声で歓迎してくれました
この詩の中で歌われる「♪みんなで」は、障害を持つ人も、持たない人も同じひとりの人間として、みんなで心を一つにして歌おうよ、というメッセージであって、私たちが今いるサークル「ぽっぽ」のみならず、広く世界の人たちにも呼びかけようとしています。
それに加えてもう一つ思いが重なっています。それは、ちょうどそのころ私は教員3年目で、まだまだ新米教師で、生徒の心をつかみきれず悪戦苦闘していました。そんな中で、目の前にいる中学生たちには「もっと心を開いて歌ってほしい」という願いが切実であり、そんな思いも併せて歌に込めました。
特に2番の歌詞に「仲間がここにいるよ、いつも君を見てる 僕らは助け合って 生きていこう いつまでも」という部分では、友だち関係のことでいろいろと悩みを抱えている生徒の姿を思い浮かべながら、仲間を信じて前に進もうという強いメッセージを込めました。
そんなことで、「マイバラード」という曲は、自分自身が身にまとっていた殻を破って、新しい世界へと飛び込んでいったことで得たエネルギーから生まれた、私の記念すべき最初の合唱曲となりました。この歌は、みんなで心を合わせて歌うことで心が一つになり、互いがわかりあえたなら、どんなにか素敵なことだろう・・・そんな思いを詩に託して作りました。
いろいろな思いを持った「人間」ですが、思いを一つにすることで心が通い合い、素敵な世界を築くことができるはずです。そんな平和な世界をイメージして、この曲を歌ってもらえたらうれしいです。ひと言でいうならば、この歌は合唱賛歌なのです。
これでも全文ではありませんので、ぜひ引用元のページも読んでいただければと思います。
ここに書かれているように、「マイバラード」は松井孝夫さんのボランティア活動の経験と中学校教員としての経験が合わさって生まれたものだと言えます。
これらを踏まえつつ、歌詞を見ていきましょう。
※「マイバラード」のWikipediaを見ると【ピアノに向かってからわずか30分ほどで出来上がった曲らしい。そして「マイバラード」を荒れていた生徒達に歌わせると、そのメロディに魅かれ、あまり歌わなかった生徒も歌いはじめ、この曲が広がったという。卒業式で歌われることもある。】とあり、それを引用している記事も多いのですが、少なくともネット上で私の調べた範囲では、その根拠となる情報は見つかりませんでした。
このエピソードは「旅立ちの日に」が生まれた背景とほぼ同じであり、松井氏が「旅立ちの日に」の編曲を手がけていることから、どこかで混同されたものではないかと考えられます。
歌詞の流れに沿って情景をチェック
1番 一人一人の思いが世界中へ!
みんなで歌おう 心をひとつにして
悲しい時も つらい時も
みんなで歌おう 大きな声を出して
はずかしがらず 歌おうよ
心燃える歌が 歌がきっと君の元へ
きらめけ世界中に 僕の歌をのせて
きらめけ世界中に とどけ愛のメッセージ
出だしから「みんなで歌おう」と呼びかける歌詞となっています。これは前述の記事では「障害を持つ人も、持たない人も同じひとりの人間として、みんなで心を一つにして歌おうよ」とあったように、その場にいる人「みんな」という意味だけにとどまらず、全世界の人でという大きなスケールを感じさせます。
「大きな声を出して はずかしがらず 歌おうよ」というところには松井さんの中学校教員としての経験が感じられます。小学校高学年くらいになってくると、「大きな声で歌うことが恥ずかしい」という気持ちがだんだんと生まれてくるように思います。
「それでも歌って楽しいよ!いいものだよ!」というメッセージがこの歌詞には込められているのではないでしょうか。
「きっと君の元へ」の「君」とは、自分にとって大切な誰かでも良いですし、歌うことを恥ずかしがっているような見知らぬ誰かとも考えられるでしょう。
誰かの心を燃やすような歌が、どんどんと次の「君」へと届いて行き、やがては世界中に広がっていくイメージが見えます。
2番 優しさは連鎖して広がっていく
みんなで語ろう 心をなごませて
楽しい時も うれしい時も
みんなで語ろう すなおに心開いて
どんな小さな なやみ事も
心痛む思い たとえ君を苦しめても
仲間がここにいるよ いつも君を見てる
僕らは助け合って 生きてゆこういつまでも
心燃える歌が 歌がきっと君の元へ
きらめけ世界中に 僕の歌をのせて
きらめけ世界中に とどけ愛のメッセージ
とどけ愛のメッセージ
2番の歌詞には優しさがあふれています。これもボランティアや中学校で、様々な人たちと触れ、その悩みや苦しみなどに触れてきた松井さんだからこその歌詞でしょう。
最後の「とどけ愛のメッセージ」は大切な誰かをイメージすると同時に、世界中の様々な人に届けるような想いを込めて歌うと良いのではないでしょうか。
さらに詳しく知りたい時は
ここまでの記事に重なる点も多いですが、更に「マイバラード」について、また松井孝夫さんについて知りたいという方は、以下のような記事も参考になると思います。
①松井さんが作曲をするようになった経緯や、「マイバラード」の歌うポイントについても書いている記事(PDF)
「うたの生まれる瞬間を探って~中学生の心に響く合唱曲を求めて~」
②松井さんの音楽に対する考えがうかがえる記事
「音楽、楽ありゃ苦もあるさ!」
③松井さんが中学生相手に自分の曲を教材に合唱指導をしているDVD ※「マイバラード」は指導していないようです。
「作曲家 ・ 松井孝夫が教える 「 歌唱授業 」 のヒケツ !」
④松井さんの大学教員としての経歴や研究内容、学生に向けたメッセージ動画など
「聖徳大学・聖徳大学大学院HP」
⑤松井さんの合唱に対する想いを「マイバラード」に絡めて簡潔にスピーチした動画
授業で扱う場合(主な発問や展開)
これまで見てきたように「マイバラード」は具体的なストーリーよりも、メッセージ性のある表現がたくさんあります。
語りかける表現や「君」という言葉もあるため、具体的に誰に向けて届けたいかということを考えると歌に想いがこもると思います。
そのため、以下のような発問について、全員で色々と想像して、共有することで理解を深めながらも、一つのストーリーに絞るのではなく、自分にとっての相手と、メッセージを思い浮かべながら歌うような指導が良いと思います。
①「みんな」とは誰のことだろう?
②自分にとっての「君」とは誰が浮かぶだろう?
③1番と2番では何が変わっているだろう?
④合唱で歌うとき、誰にどんな思いを込めて歌う?
最後に
いかがだったでしょうか?
このスケールが大きく優しい曲が作曲デビューだというところに松井さんの
■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。
他の合唱曲の歌詞分析はこちら ↓
