合唱 歌詞 解釈

合唱曲「モルダウ」の歌詞の意味を深く考察!〜〜

こんにちは!

合唱コンクールや卒業式で「モルダウ」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。

心を込めて歌おうにも、歌詞のイメージがハッキリと浮かんでこない!

そんな風に感じていませんか?

私はこれまで、多くの学生に歌詞の意味を指導してきました。

なんとなく歌っていた最初と比べ、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後では、歌う時の気持ちの込め方も全く違うものになります。

ぜひ、「モルダウ」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!

歌はこちらから聴けます。

ONTAでは「Chorus ONTA Vol.6」に収録されています。

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 基本情報と歌詞のポイント

中学の音楽の授業や合唱コンクールで歌われることが多い「モルダウ」。これはチェコの作曲家、ベドジフ・スメタナが作曲した6つの交響詩からなる「わが祖国」の第二番目の曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」に様々な方が日本語の詞をあてています。中でも岩河三郎さんの詞をあてた合唱曲が有名ではないでしょうか。

この詞の言葉自体は難解ではないですし、内容もモルダウの風景を歌っているものなので、理解はしやすいと思います。しかし、この歌を歌うにあたっては、当時のチェコとスメタナのことを知っておきたいところです。

当時のチェコはオーストリア帝国の支配下にあり、独立への気運が高まっていました。スメタナもそんな時代の中「国民楽派」と呼ばれ、「モルダウ」が含まれる「わが祖国」はスメタナの民族主義的な楽曲の代表作となっています。

※「モルダウ」はドイツ語で、チェコ語では「ヴルタヴァ」という曲名なので、スメタナとしては民族音楽として「ヴルタヴァ」と呼ばれたいかもしれませんね。

スメタナはこの「モルダウ」作曲の直前に病気で聴力を完全に失いましたが、それでもこの第二曲の「モルダウ」を含め「わが祖国」第六曲まで完成させました。

岡本敏明・野上彰・岩河三郎と、複数の日本人の方が「モルダウ」の音楽に詞をあてていますが、その内容はとても似ています。それは恐らく、スメタナ自身がこの曲のモチーフを解説として詳しく書き残しているからでしょう。スメタナ自身がこの曲について以下のように書いています。(以下Wikipedia「わが祖国(スメタナ)」より引用)

この曲は、ヴルタヴァ川の流れを描写している。ヴルタヴァ川は、Teplá Vltava と Studená Vltava と呼ばれる2つの源流から流れだし、それらが合流し一つの流れとなる。そして森林や牧草地を経て、農夫たちの結婚式の傍を流れる。夜となり、月光の下、水の妖精たちが舞う。岩に潰され廃墟となった気高き城と宮殿の傍を流れ、ヴルタヴァ川は聖ヤン(ヨハネ)の急流 (cs) で渦を巻く。そこを抜けると、川幅が広がりながらヴィシェフラドの傍を流れてプラハへと流れる。そして長い流れを経て、最後はラベ川(ドイツ語名:エルベ川)へと消えていく。

この原曲のイメージも大切にしながら、合唱曲の歌詞も見ていきましょう。

歌詞の流れに沿って情景をチェック

前半 雄大な流れ

【前半】
なつかしき河よ モルダウの
清き流れは わが心
うつくしき河よ モルダウの
青き水面(みなも)は 今もなお
流れにやさしく 陽(ひ)は注ぎ
さざなみはいつも 歌うたい
岩にあたり しぶきあげて 渦をまく

豊かな流れよ モルダウの
広き水面は 今もなお
春には岸辺に 花開き
秋には黄金(こがね)の 実を結ぶ
愛の河よ しぶきあげて 流れゆく

歌い出しは「なつかしき河よ」ですが、これは二通りの解釈ができると思います。

1つ目は、故郷から離れた場所で故郷の「モルダウ」を思い出して歌っているというものです。当時、チェコはオーストリア帝国の支配下にあり、その難を逃れて故郷を離れた人たちもいたでしょう。そのような心を歌ったと捉えられます。実際、スメタナも様々な事情で何度かプラハを離れ、外国での生活をしています。

2つ目はオーストリア帝国に支配される前の「昔の古き良きチェコの時代」を懐かしんでいるという解釈です。1つ目が地理的な「懐かしさ」だとすれば、2つ目は歴史的な「懐かしさ」です。この「モルダウ」を含む「わが祖国」がチェコの独立の気概を込めて作られたものだと考えれば、こちらの解釈もできそうです。

その他の部分はモルダウ河の美しくも雄大な様子を歌っていて難解な部分はないでしょう。「黄金の実を結ぶ」のは小麦が実り、収穫の時期を迎えている描写でしょう。

あえて解釈を入れるのであれば、「河の流れ」に国家としての歴史の流れを重ね合わせ、「岩にあたり しぶきあげて 渦をまく」などは、歴史上の戦乱などの苦難の時代を表していると想像を膨らませることもできると思います。

後半 人々の暮らし

【後半】
豊かな流れよ モルダウの
広き岸辺に 狩をする

今日も響く 角笛高く
人は駆ける 獲物求めて
銃(つつ)の音は 森にこだまし
岸辺に湧く 喜びの歌
ラララララ ラララララララ

月の出とともに 村人は
今日の恵みを 祝い踊る
なつかしき河よ モルダウの 岸辺には
豊かな幸(さち)が 満ちあふれ
人の心は いつまでも
この河の 流れと共にゆく
わがふるさとの この河モルダウよ
わがふるさとの この河モルダウよ

前半が河の流れの描写だけだったのに対し、後半では角笛の音をきっかけに、河の周りで暮らす人々の様子が描かれます。

前半に比べて後半には「角笛」「駆ける音」「銃声」「歌声」など様々な人々の「音」が表現されています。

その後の「月の出」からは曲調が柔らかくなり、もの悲しい歌詞になるかと思えますが、「今日の恵みを 祝い踊る」と最後まで豊かさを歌いあげて終わっていきます。

これもあえて壮大な解釈をするのであれば、前半が人類が誕生する以前の大自然としての「モルダウ」の姿を描き、後半で人類の定住や進化、「角笛」「銃声」などの戦争、などさまざまな歴史の流れを描きながら、最後は滅びに向かうことなく「人の心は いつまでも この河の 流れと共にゆく」と幸福な未来を描いて終わっている、という見方もできます。

いかがでしょうか?合唱では、気持ちの込めやすいそれぞれのイメージを共有し合ってみてくださいね。

授業で扱う場合(主な発問や展開)

これまで見てきたように「モルダウ」は素直に読めば、河の情景を描いただけの詞とも言えます。

ですが、その背景にあるスメタナやチェコのことを踏まえるとまた違った見え方ができそうです。歌う前にはぜひモルダウ河の映像を見たり、以下の発問などについてそれぞれ考えを出し合って、イメージを深めてみてください。

【発問例】
①話者は今、河を見ていますか、見ていませんか。
②この歌を前半と後半に分けるなら、どこで分けますか。なぜそこで分けましたか。
③前半と後半の違いをなるべくたくさん挙げなさい。
④河がもたらす「豊かな幸」とは具体的には何がありますか?なるべくたくさん挙げなさい。
※農業用水・飲料水・洗濯・下水・動物の飲み水、植物を育てる水 など
⑤河の流れを、歴史の流れと考えると、それぞれの部分がどんな歴史にあてはまりますか?

最後に

■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、先生の考えだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。

さらに興味がわいたら、以下の「わが祖国」全体も聴いてみてください。

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